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日本球界は大恐慌時代を乗り越えられるのか? 日本代表効果の限界(下)

 日本代表が連覇して盛り上がったWBCに関しても、実は、楽屋裏では「4年後の大会はもういいんじゃないか。優勝しても、結局、主催の大リーグ機構(MLB)を儲けさせるだけ。ばからしい」という本音が聞こえてくる。優勝賞金310万ドル(約2億7900万円)といっても、選手との折半だから、NPB側には半額しか入らない。来年6月に行われるサッカーワールドカップ南アフリカ大会の優勝賞金が3000万ドル(約26億5000万円)というのと比べれば、ひとケタ違う。

 「サッカーのワールドカップだって最初から今のような世界的人気のビッグイベントだったわけではない。何十年もかけてああなったんだ。MLBの独断専横とか、いろいろ問題はあるが、WBCも時間をかけてサッカーのワールドカップのように育てる必要があるんだ」とは、第1回日本代表監督を引き受けた王氏の持論だが、第2回大会を終わっても変わらない目に余るMLBの独断専横ぶりに、日本球界関係者の多くが爆発寸前なのが現実だ。大会を盛り上げるのに欠かせないテレビ局の不満も増すばかりだ。
 韓国との決勝戦のテレビ視聴率が36.4%(ビデオリサーチ調べ)を記録するなど、中継したTBS、テレビ朝日はヒーロー扱い。巨人・原監督が日本代表監督、しかも東京ラウンドは読売が主催なのに、最初から放映権争奪戦から撤退してしまった日本テレビへの風当たりは強かった。身内の巨人・渡辺恒雄球団会長も「TBSは損得抜きに日本代表戦を中継するという局全体としての意気込みがあった。だから成功した。日本テレビには気概がない」と批判したほどだ。
 が、テレビ局関係者は意外な事実を明かす。「視聴率だけ見れば、大成功のTBS、テレビ朝日vs大失敗の日本テレビという図式だが、現実はそうではない。何十億円というバカ高い放映権料だから、TBS、テレビ朝日は儲かっていない。高視聴率のおかげで局のモチベーションが上がっただけだろう。最初から高すぎる放映権料に嫌気がさしてWBCは中継しないと決断していた日本テレビはむしろ賢明といえる。東京ラウンドを主催した読売だって、損はしなくても、せっかく集めた莫大なスポンサー料をMLBに吸い上げられるだけだったんだから」。MLBによるMLBのためのWBCというのが、ウソ偽りのない実態なのだ。それだからこそ、「もうWBCなんかやる必要はない」という恨み節が聞こえるのだ。
 「3年、4年に1回のWBCよりもペナントレースの方が重要だろう」という声は、12球団、労組・日本プロ野球選手会双方の間からもあがっている。12球団に対し、「WBCに出場した選手のペナントレースの成績が悪くても査定で考慮して欲しい」と要求を出していた選手会は自ら撤回してみせた。「毎日、ファンが球場にきてくれるペナントレースの方がやはり大事ですから」と。

 12球団側も足並みを揃えた。当初、WBC祝勝会とMVP、新人王などを表彰するコンベンションを一緒に開催する予定を変更。それぞれ別の日に行われたのも「一緒の日にやると、WBC祝勝会の方が突出してしまい、せっかくのMVP、新人王、ベストナインの表彰がかすんでしまう。それは本末転倒だ」という配慮からだった。

 12球団、選手会のWBC離れは、MLBの利権独占だけが理由のすべてではない。出場した選手に想像を絶する負担がかかり、満身創痍の現実があるからだ。準決勝、決勝戦で日の丸守護神を務めた日本ハム・ダルビッシュ有はペナントレースの大詰めで故障して戦線離脱。日本シリーズで強行登板して1勝をあげたものの、来季に不安を抱えている。球界参入して以来、初のクライマックスシリーズ出場を果たした楽天の両輪、岩隈久志、田中将大もケガに苦しんだ。首位打者争いの常連のヤクルト・青木宣親は2割3、4分台で苦悩、シーズン終了間際にようやく駆け込み3割を達成する始末だった。
 投打のチームリーダーになった日本人メジャーリーガーコンビ、レッドソックス・松坂大輔、マリナーズ・イチローも例外ではなく、アクシデントに見舞われている。松坂などは故障の繰り返しを「WBCで投げすぎたのが原因だ」と決めつけられ、しかもメジャー流の球数制限調整を批判したと、米メディアからバッシングされ、懲罰トレード情報まで流されている。イチローも開幕直前に胃潰瘍になり、戦線離脱した。災い転じて福となすで、結果的には日米通算で張本勲氏の持つ日本記録の3085安打を超え、9年連続のシーズン200本安打のメジャー新記録を達成している。が、「イチローも生身の人間だった」と言われ、WBCで日の丸を背負う、想像を絶するプレッシャーを証明する形になった。
 唯一無事だったのは、内海哲也を「ニセ侍」呼ばわりした原監督だけだった。興行収入の大半はMLBに持って行かれ、主力選手は燃え尽き症候群では、踏んだり蹴ったりだ。「日本代表を常設して年間20試合やれば、10億、20億円の収益がある」というNPB救済案が、見た目はドリームプランでも、実際はいかに実現困難なものか、WBC日本代表を見てもよくわかるだろう。日本代表の集客力にオンブにダッコした結果、Jリーグの試合にファンがそっぽを向き、そのうちに日本代表の商品価値まで暴落したサッカー界は、対岸の火事ではない。
(了)

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