ホライズンの買収と、正式受注が秒読み段階を迎えたリトアニアの陰に隠れているが、日立はフィンランド、カナダ、ポーランド、ベトナムなどでも受注活動を展開している。同社単独のケースもあれば、原発事業でタッグを組む米ゼネラル・エレクトリック(GE)との二人三脚で交渉しているケースもある。各国の電力事情も絡んで対応はさまざまだが、ライバル陣営が「そこまでやるか」と目を剥くのがベトナムで打ち込んだ強力なクサビである。
茨城県日立市に本社がある日立GE(日立とGEの合弁会社)は、昨年から国営ベトナム電力グループが設立したベトナム電力大学で出張講座を開催した。東南アジア各国が原発の導入を計画している中、将来を担う人材を育成しようとの試みで、講師は日立GEと東京工業大学が出した。要するに今後の原発新設の8割を担うとされる新興国に、早々とツバをつけようとの戦略である。
それにしても、なぜ東京工業大学なのか。耳を疑いたくなる話がある。ことの発端は一昨年10月、菅直人首相(当時)とベトナムのグエン・タン・ズン首相が「原子力分野での人材育成への協力」で合意。日本はベトナムが計画する第二原発のパートナーとなることが決まった。その縁から菅前首相の母校である東京工業大学は、「国際原子力人材育成」の寄付講座を開設した。技術者育成といえば耳障りはいいが、これぞベトナムで原発ビジネスのうま味にありつきたい日立の“肝いり講座”に他ならない。その先棒を担いだ菅前首相が、今や“脱原発”の闘士に変身し、正義の味方らしく振る舞っているのだから皮肉でしかない。
「原発を“金のなる木”とにらむ日立にとって最大の誤算は、強力な援軍となるはずだった東電の身動きが全く取れなくなったこと。海外の受注競争では建設や保守だけでなく、運営までのノウハウがセットで要求される。東電が自分の頭上を飛び交うハエさえ満足に追い払えなくなった以上、日立は英国の原発会社に大枚を投じざるを得なかったのです」(業界関係者)
将来のドル箱ともくろむ新興国とはいえ、どこまで受け入れるかは疑問符もつく。日立の野望が頓挫したら、それこそ東電の二の舞である。