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【不朽の名作】神話ベースのSFアドベンチャー「ヤマトタケル」しかし全体的な出来は…

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パッケージ画像です。

 先日、『シン・ゴジラ』を観に行き劇中の某作戦名でタイトルを思い出したので今回は『ヤマトタケル』(1994年公開)を扱う。

 東宝の「VSゴジラ」シリーズは、これまでのゴジラシリーズのように、右肩下がりで途中で低予算路線にならず、年末年始の映画として成功を収め、大作扱いで安定した興行収入が得られる作品に成長していた。その好評を受け、東宝はゴジラとは別のアプローチで特撮大作シリーズを作ろうと企画した、それが同作だ。

 実は当時、ハリウッド版ゴジラ(98年公開のマグロ食ってる方のやつ)の企画が上がり、『ヤマトタケル』の公開の前、93年の12月に公開した『ゴジラVSメカゴジラ』を最後に国内のゴジラシリーズは一旦休止する予定だった。その影響もあり、コンセプトとしては、VSシリーズ同様、親子が楽しめることを狙い作られた作品となっている。ゴジラシリーズとの大きな違いは、7月公開で、夏休みを強く意識していた点と、怪獣が主役ではなく、日本の「古事記」を元にしたキャラが主役となっている点が挙げられる。

 キャストはヤマトタケル役に高嶋政宏や、オトタチバナ役に沢口靖子など当時東宝系列の作品に多く出演していた役者が目立つ。また、同作は大河原孝夫が監督で、特撮部門を担当する特技監督に川北紘一をつけるなど、当時のゴジラシリーズと同じスタッフが担当。特撮方面でもゴジラシリーズと同程度の技術が使われている。それどころか、劇中に敵役として登場するヤマタノオロチは、ゴジラ映画で登場したキングギドラより首の数が5本も多く大型で、操演技術に関してなどは、ゴジラ以上に大規模と言っても言いすぎではないだろう。

 全体的な流れとしては、主人公ヤマトタケルの冒険描写や、重要アイテムの収集要素、クマソタケルやヤマタノオロチ、ツクヨミなど魔物や強敵を討伐にいく設定などに、当時流行していたゲームの「ドラゴンクエストシリーズ」や「ファイナルファンタジーシリーズ」など、RPG要素を強く意識した作りがみられる。また、独自解釈による神話をベースにした「SFアドベンチャー」と銘打たれており、巨大ロボなども登場するなど、色々挑戦的な作品となっている。

 しかし、同作は当時の邦画特撮技術の最先端が使われているにも関わらず、作り物感が丸出しなのが難点だ。その問題の大きな原因にライティングの微妙さが挙げられる。全体的に“ただ明るい”シーンが多く、そのせいで、セットや着ぐるみ、ギニョールの自己主張しすぎな部分が目立つ。ライティングは怪獣映画においては実在感を出す肝の部分でもあり、陰影などにかなりこだわるはずなのだが、この作品だとそこの工夫が感じられないのだ。SF感を出すためにわざと明るくしたのだろうか? 特撮ファンでも許容できないレベルでの違和感だ。

 また、戦闘シーンの特殊効果演出もこれがまた微妙。特に、オトタチバナ役の沢口が、「オン!」という掛け声で発射する火の玉のシーンでは、あまりの格好悪さに「ふふっ!」と笑ってしまうこと間違いなしだろう。絶妙なへっぴり腰でショボい火の玉が発射されるさまがなんともいえない。しかも劇中ではかなり連発するので、もうやめて欲しいと思うほどだ。さらにヤマトタケルも、勾玉の力を借りて目からビームが出るようになっている。これがまたショボい感じが強すぎる。ラスト付近のツクヨミ(阿部寛)とヤマトタケルの目からのビームの打ち合いは、よく特撮作品で見る構図なのだが、専用スーツのヒーローや、怪獣がやらないとここまで残念になってしまうのかと、驚く部分でもある。ちなみに、セイリュウ(石橋雅史)が使う妖術の演出はわりと良かった。

 殺陣自体はヤマトタケルとクマソタケル(藤岡弘)の対決シーンなどは悪くはない。まあ、そこは藤岡が特撮作品でのアクションシーンを理解して動いているからという部分もあるだろう。他の部分では必要なのかわからないワイヤーアクションなども目立つので。それでも、特殊効果てんこ盛りのシーンよりはかなり見所がある。その反面、問題となっているのが、ラストのヤマトタケルとオトタチバナが、オロチカラサイノツルギ、水晶マガタマ、シラトリノカガミという伝説アイテムと同化して姿を現した、戦神こと巨大ロボ・ウツノイクサガミとヤマタノオロチとの対決だ。

 このシーンでは、いきなり、オトタチバナが光に変わっていくので、役者的に「『ゴジラVSビオランテ』かな?」とツッコミたくなるのだが、それはさておき、まず、ウツノイクサガミがほとんど動かない。東映の戦隊モノロボでもまだ動くのではないだろうか? ヤマタノオロチの方も見せ方が完全にキングギドラだ。所々炎は吐くのだが、キングギドラの引力光線のようなビームを出しているシーンの方が強く印象に残ってしまう。しかもモッサリした動きで、ウツノイクサガミが剣で首を1本ずつ切り落とし、ビーム打って終了って…。登場時間が少なくて逆に助かるレベルだ。長時間こんなショボい戦闘を見せられたのなら耐えられん…。その前のヤマタノオロチと生身のヤマトタケルの対決は悪くなかっただけによけい残念だ。

 前半のクマソガミや中盤の海神ムーバとの戦いは、前記の対決ほど悪くはない。だが、相手が人間であるというところが問題で、巨大感がイマイチ出せていない。特に、人間側にビームや武器が着弾した時の爆発が残念だ。まあ、当時CGはあまり使えないし、最近の作品でも巨大な敵と人間の対決は、もてあまし気味なので仕方ない部分でもある。『ゴジラ FINAL WARS』くらいのノリで突き抜けてくれればまだ見所があったかもしれないが。

 神話をベースにしたおかげで独特な雰囲気が出ており、その部分でのワクワク感は多少あるが、ストーリー展開も詰め込みすぎな部分が多く、まるで総集編を観ているような気持ちになることも多い。全体的にダメな方面が目立つ色々と残念な作品だ。なお、この作品公開後、ハリウッド版ゴジラの制作の遅れが明らかとなり、VSゴジラシリーズは継続し『ゴジラVSスペースゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』とシリーズとしてはファンの多い2作を生み出す。公開当初は『ヤマトタケル』のシリーズ化計画もあったそうだが、実現はしなかった。しかし、VSシリーズ終了後に作られた、平成モスラ3部作には、同作の雰囲気も活かされている部分があり、全くダメな作品という訳では、なかったのではないだろうか?

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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