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お笑い芸人にとって人工知能は天使か悪魔か

 昨今、目覚ましいほどの進化を遂げているIT技術。その中でも、全世界から熱視線を浴びているのが、人工知能「AI」である。

 今年3月、グーグルの子会社で人工知能研究を続けているディープマインドが開発した囲碁AIの「アルファ碁(AlphaGo)」が、世界最強のプロ棋士である韓国のイ・セドル氏と対戦し、4勝1敗と完勝。まさかの結果に、世界中に衝撃が広がった。囲碁の世界では、人間とAIの対戦において、人間は向こう10年安泰と言われていた。しかし、その衝撃は、ただ単にAIが勝利したことだけではない。AIの着手に対して、対局をリアルタイムで解説していたプロ棋士も全く予測できなかったという点…つまりAIが“新手”を創造したのだ。実はこの「アルファ碁」は、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる新技術によって、何千万回も自分自身と対局し、囲碁のパターンを学習していた。

 現在、AIは様々な分野で開発され、小説、絵画、医療、自動車など多岐に渡る。小説においては、AIが書いた小説が「星新一賞」の1次審査を通過、また、絵画ではAIが「レンブラント」の新作を出力。さらに医療業界では、癌を早期発見できるAI画像解析技術も開発されている。そして、一番身近なところで言えば、AIによる自動車の自動運転だろう。グーグルが現在開発しており、近いうちにAI運転が全世界的に普及すると期待されている。

 AIの加速度的な進化に我々一般人の生活がより便利に、より豊かになるというプラスの側面がある一方で、人間の仕事が機械に奪われ、世界的規模で失業者が増大するという大きな懸念もされている。

 その懸念は何も、肉体労働や単純労働の分野だけでなく、プログラマー、エンジニアなどのIT従事者、さらに、作曲家、画家、演奏者、小説家など芸術的な分野でもその危機が迫っている。

 今回、リアルライブ編集部は芸術部門の中で「お笑い芸人」という職業に着目。現在、「お笑い芸人」というのは当然ながら人間の職業である。漫才やコント、一発ギャグ、面白エピソードを披露し、見ている者を笑わせるというのが芸人である。人間が人間を笑わせるというのは非常に高度な能力であり、人間の個性の1つでもある。

 そこでリアルライブ編集部は、宇宙物理学者・理学博士であり、人工知能にも精通している松田卓也神戸大学名誉教授に話をきいた。松田教授は2013年に著書「2045年問題 コンピューターが人類を超える日」(廣済堂新書)を出版。同書では、2045年に人工知能が、人間の知能を超えると予測。専門的な用語では、「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼ばれている現象で、今後、「AI」が「AI」を開発し、さらに優秀な「AI」が誕生するという、いわば“AIの開発連鎖”が起きると説明している。

 まず、松田氏は「アルファ碁は強力だけど、まだ意識なんて持ってないからね。今後重要になってくるのは、ドラえもんや人間みたいなロボットを作れるか」と定義した。

 つまり、「アルファ碁」のような特化型人工知能と「ドラえもん」のような汎用人工知能との区別である。現在、人工知能と呼ばれているのは、すべて特化型。今後、新たな人工知能を開発する企業は、いかに高度な汎用人工知能を作るか、というのがポイントになる。松田氏は「汎用人工知能が作られるのは、予測では2029年と言われている」と説明。あと13年後には汎用人工知能の第一弾が完成しているというわけだ。

 汎用人工知能が完成した場合、重要なポイントは「生きたコミュニケーション」。まず、松田氏は人間の脳の仕組みについて、「なぜ人間同士で物事が通じるのか、人間の頭の中には世界観っていうのがある。これは脳を理解する上で根源的に重要である」と解説した。

 人間が笑うという行為は、AとBの間に同じ世界観、共通のモデルがあってこそ成立するもので、例えば、赤ん坊が漫才を見ても言葉や世界観がわからないため分からない、しかし大人は言葉と世界観を認識して笑うことができる。つまり、お互いの世界観を刺激またはシェアすることで、「笑い」が生まれるという。

 そこで、松田氏に「漫才のパターンをAIにディープラーニングさせたら、AIは完璧な漫才を習得し、人々を笑わせることができるのか?」という質問をぶつけてみた。

 「どうでしょうね」と懐疑的な松田氏は、「相手の世界観を刺激することだから、単に言いっぱなしはダメで。面白いことを言うのは、単純に言葉の力だけでなく、雰囲気や間が良かったりすることも含まれる。落語や漫才を詰め込んでもダメで、優秀な芸人っていうのは単に喋るだけじゃなくて、相手の表情を見て、呼吸を変えたりする。それがAIにできるかどうか」と説明した。

 優秀な芸人並の「笑い」を創造できるのは、相当高度な人工知能になるという。単純に面白い話をディープラーニングで学ばせることはできるが、それは真の芸にはならず、「一定は面白いけど、ある線は越えられないと思う」と考えを示した。

 また、AIは「一発ギャグを創造できるのか?」という質問も投げかけてみた。

 松田氏は「お笑いを作るのは、絵を作るのより遥かに難しい」と指摘。「なぜって“言葉”でしょ!? 言葉が一番難しいのよ。汎用人工知能って、人間に近い、人間を突破するために何が必要かといったら、言葉。現在、音声認識ソフトはすでにできているが、言葉を真に理解することが大事。そういった意味では、Siriはまだ言葉を真に理解していない」と説明した。

 言葉を真に理解する…表面上の言葉だけでなく、人工知能は人間の感情や背景を理解することが重要になってきそうだ。

 松田氏は「理解したふりをすることはできる」と可能性を示唆したものの、「ただ、感情とはあまり高等なものではない。動物だって持っている。なぜって動物は敵が来た時に戦うか、逃げるかでしょ。だから、逃げるためには恐怖が必要。で、戦うためには怒りが必要。だから、その感情は高度なものじゃない。だから、あらゆる動物が持っている、基本的な“下等なモノ”が感情なんですよ」と感情について説明し、「よく人工知能に関しての質問で、意識はありますか? っていう質問が多いけど、感情がありますか? って。作ろうと思えば作れるけど、作るべきかって問いに対してはわからない。なぜならば、感情は高等なモノじゃない。下等なモノだから」と答えた。

 つまり、人工知能という高等な技術に、わざわざ“下等な要素=感情”を入れるべきか、という疑問である。高等なモノはさらに高等になるべき、理性を極限まで追求すべきと指摘した。

 松田氏は「僕に言わせたら、そこが人々の大きな誤解で、人間は感情が尊いもんだと、愛だとか。そこが実は違う。そこは道徳的なんやと。真に人間的とは、人間にしかないもの。それは理性であり、合理性であり、言語である」と力説した。

 特にこれから重要になってくるのは「言語」と強調。「言語が難しい。ロボットが、言語を習得し、真に言葉を理解するのは最後になるでしょう。なぜかというと、“笑い”というのは“文化”なんですよ」と説明。例えば、日本語しか分からない日本人が海外に行った時、周囲の外国人が笑っているのに、自分だけがその笑いを理解できないというケースがある。

 松田氏は「英語が分からないという側面もあるし、“笑い”は文化ですから、何がおかしいのかわからない」と解説し、「だから、“笑い”とは世界観や文化なんです。ロボットに文化を教えるのは最後になる。そういった意味では、お笑い芸人はまだ安心していいと思う。15年は大丈夫」と推測。さらに、「15年後には、『スターウォーズ』のC3POやR2D2みたいなロボットが、漫才を披露しているかもしれないですね」と期待した。

 “15年”という歳月…早いか、遅いかを感じるのは人それぞれだが、15年後、我々の世界はどのようになっているのだろうか? そして、お笑い芸人たちは、現在と同じようなポジションにいるのか? 非常に興味深い。

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